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組織球症とはエルドハイム・チェスター病(ECD)
Erdheim-Chester disease(ECD)

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はじめに

LCHとは?

エルドハイム・チェスター病(ECD)とは、血液細胞の一種である組織球が腫瘍化した病気で造血器悪性腫瘍です。
世界中で報告されている患者さんは約1,500人、日本では約40人しか確認されておらず、診断が難しい病気です。症状が多岐にわたるため、整形外科、呼吸器科、皮膚科、循環器内科など、さまざまな診療科を受診されることがあります。現在、保険診療で使用できる治療薬が限られているため、工夫しながら治療を進めています。ECDはまれな疾患ですが、適切な診断と治療により、症状のコントロールが可能です。

エルドハイム・チェスター病(ECD)の症状

骨、心・血管、肺、内分泌(下垂体)、後腹膜、皮膚(眼瞼黄色腫)に病変を認める事が多く、骨痛、皮膚のぶつぶつ、画像異常などで気付かれることが多いです。特に、心・血管病変や中枢神経病変を認める場合は命に関わる重篤な状態となることがあります。それ以外の病変でも、骨の痛みや全身倦怠感などで日常生活に支障を来します。

  • 眼窩
    30% 眼窩腫瘤(目の周りにしこり・腫れ)が生じます。
  • 皮膚
    25% 黄色腫瘍がみられます。
  • 50% 主に胸膜に異常が生じます。
  • 後腹膜
    40%~50% 腎周囲にもや状の浸潤がみられ、副腎へ浸潤することもあります。
  • 精巣
    3%~5% まれに病変部位となり、RDDとの重複疾患として発生することがあります。
  • 神経系
    40% 硬膜、脳実質、脊髄、神経根に病変がみられます。
  • 内分泌
    50%~70%尿崩症が診断に先行することが多く、視床下部や下垂体茎に病変がみられます。
  • 血管
    50%~80%大動脈やその他血管周囲に浸潤がみられます。
  • 心臓
    40%~70% 心臓の右側(右房室溝や右房壁)に病変が生じることが多いです。
  • 90%膝周囲の硬化症が特徴的です。

エルドハイム・チェスター病(ECD)の主な症状

骨痛(特に足の骨)
心筋炎、弁膜症、不整脈、心タンポナーゼ(心臓の周囲に水が溜まる)、心不全
血管 冠動脈(狭心症、心筋梗塞)、腹部の動脈(腸管壊死)、腎動脈(腎不全、腎性高血圧症)、脳動脈(脳梗塞)
咳、呼吸苦、呼吸機能の低下
内分泌(下垂体) 尿崩症(喉が渇く、尿量が増える)、下垂体前葉ホルモン低下(成長・性腺・甲状腺・副腎皮質ホルモンの低下)
後腹膜 尿管狭窄による水腎症、腎機能の低下
皮膚 眼瞼黄色腫(瞼の黄色いふくらみ)
中枢神経 物忘れ、ふらつき、手足のしびれ、麻痺
眼球突出、複視(物が二重に見える)

エルドハイム・チェスター病(ECD)の診断・検査

ECDの診断を確定するためには、病変部位(骨や皮膚など)の組織の一部をとって顕微鏡で確認する『病理診断』が必要です。

ECD病変の広がりを評価するために、CT検査と骨シンチ検査、もしくはPET/CT検査、頭部MRI検査、心臓MRI検査を行います。血液検査で炎症反応(CRPなど)、肝機能、腎機能、血液細胞数などを評価します。

エルドハイム・チェスター病(ECD)の治療

エルドハイム・チェスター病(ECD)は非常にまれな病気のため、まだ大規模な治療の比較研究が行われておらず、標準的な治療法が確立されていません。以前は、診断から3年以内に60%以上の患者さんが亡くなるとされていましたが、インターフェロンα治療の導入により、5年後の生存率は約79%まで改善しています。

ただし、日本ではこの治療が保険適用外であり、自費での治療となるため、費用の負担が大きくなります。また、インターフェロンαは病気の進行を抑える効果はあるものの、心臓や中枢神経に病変がある重症の方には十分な効果が得られないこともあります。その他、抗がん剤(クラドリビン)が治療効果を認めるとの報告もありますが、こちらも日本では保険診療で治療を実施することができません。

近年の研究により、ECDの患者さんの半数以上に発がん性の遺伝子変異(BRAF遺伝子変異)を持つことが分かってきました。このBRAF遺伝子が作るタンパクを抑える薬(BRAF阻害剤)が効果を認めることから、米国では2017年よりBRAF変異陽性ECDに対してBRAF阻害薬が使用できるようになりました。日本でも2023年からBRAF変異陽性のECDに対してBRAF阻害薬(ダブラフェニブ)とMEK阻害薬(トラメチニブ)の併用療法が実施可能となりました。

薬理分類 一般名 商品名
抗がん薬 クラドリビン ロイスタチン注®
BRAF阻害薬 ダブラフェニブ タフィンラー®
MEK阻害薬 トラメチニブ メキニスト®
免疫賦活薬 インターフェロンα スミフェロン®

エルドハイム・チェスター病(ECD)の治療

※適応外薬
2-CdA:クラドリビン
IFN-α:インターフェロンα
他治療1:クラドリビン、インターフェロンα
他治療2:上記で使用していない薬剤もしくはMEK阻害薬

インターフェロンαは週3回の注射、BRAF阻害薬(ダブラフェニブ)とMEK阻害薬(トラメチニブ)の併用療法は毎日内服、どちらも効果を認める限りは治療を続けることになります。抗がん剤点滴(クラドリビン)は1日2時間点滴を5日間、その後、1コース28日間を5コース行います。

保健適応外

再発時の治療
再発時の治療

保健適応

再発時の治療

治療法の選択は、病気の状態や遺伝子のタイプ、全身の健康状態などを総合的に考慮して決定されます。治療の内容や費用、通院・入院のスケジュールなどについては、主治医とよく相談しながら進めていきましょう。

治療経過

LCHとは?

腫瘍消失もしくは腫瘍縮小効果は治療法によって異なり、BRAF阻害剤で約8割インターフェロンαで約5%(約75%で腫瘍不変)クラドリビンで約5割です。ECDは、患者さんによって症状や進行のしかたが異なります。無症状のまま経過する方もいれば、すぐに命に関わる状態ではない場合もあります。しかし、特に中枢病変や心血管病変では無症状でも徐々に進行し、重篤な状態(脳硬膜腫瘤による麻痺症状、血管狭窄による心筋梗塞や脳梗塞など)になる可能性もあるため、疾患の進行を止めるために早期の治療が重要です。

今後の課題

ECD細胞に発がん性の遺伝子変異を認めることが最近明らかになり、その遺伝子変異が作る物質を抑える薬が治療選択肢の一つとなる可能性があります。ECD患者さんの病変組織もしくは血液で遺伝子変異を検査することができるため、希望があれば検査を行っています。BRAF遺伝子変異のあるECD患者さんでは、BRAF阻害薬とMEK阻害薬の併用療法が実施できるようになりました。しかし、その他の遺伝子変異を標的とした薬が日本ではまだ使用できません。将来その薬が使用できるよう、新しい治療方法の開発が期待されます。